なぜ大企業ではノウハウ共有文化が育たないのか

ノウハウは Wiki にまとめればいいのに。Q&A を社内に構築して発言し合えるようにしたらいいのに――私はそう考えて、行動に起こしてきたが、越えられない壁があることに気付いた。

自分の実力を棚に上げて、かつ偏見もたくさん交えてはいるが、この「越えられない壁」を、なぜなのかという理由の列挙という形で言語化してみる。

文章を書くことに慣れていないから

大企業で働く人間の大半はリア充である。学生時代はパソコンを使うよりも人付き合いやらアウトドアやらに費やしてきた。また、社会人になってからもそれらを重視し、仕事でも手より口を動かしている(相談する、会議する、雑談する)時間が長い。

ゆえに文章を書くことに慣れていない。タイピングも遅いし、文章向けの表現を考えることにも慣れていないから、喋るよりも圧倒的に負担がかかる。負担のかかることはついつい避けてしまいがちだ。ノウハウなど残さなくても仕事は進められるからなおさら。

文章という「形として残る発言」を残したくないから

大企業で働く人間の大半はリア充だと書いた。

リア充はコミュニケーションモンスターでもあり、同種の人間でなければわからないような高度な情報戦や心理戦を行っている。また暗黙の了解や空気と呼ばれるものにも敏感で、従順だ。

そんな彼らにとって文章という「形として残ってしまう発言」は厄介だ。口頭なら証拠が残らないし、うろ覚えでもごまかすことができるのに、文章として残ってしまっていてはそうもいかない。お茶を濁せない。誤魔化せない。

だから彼らは文章を書かない。ノウハウもまた文章であるため抵抗感が強く、よほどの理由がない限りは書くことを避けようとする。

どおりで誰も書こうとしないわけだ。

グレーノウハウやブラックノウハウが多いから

グレーノウハウとはオフレコなノウハウのことであり、ブラックノウハウとはバカ真面目に考えれば完全にアウトなノウハウのことである。

ノウハウというものは実はグレーなもの、ブラックなものが多い。というのも、大企業のルールや制度やどうしても汎用的で融通の利かないものになってしまい、バカ真面目に従うと仕事にならないからである。当然、そんなものを形に残せるはずなどない。

※余談。じゃあどうやって伝わっているかというと、人伝(ひとづて)である。「大学生の過去問入手問題」とも似ているが、人伝のラインに入ってない従業員はこれらノウハウを享受できない。私は大学では一人で全科目勉強して凌いできたタイプだが、仕事ではそうもいかないようだ。

リテラシーが無いから

エンジニアであれば各種ツールやサービスやインフラを使って、ノウハウを蓄積・共有することは難しくない。面倒で行動しないことはあるが、やろうと思えばできる。

しかしこれはエンジニアだからこそであって、万人に行えるわけではない。世の中にはメールを疑わず Slack を知らず、Wiki の概念や必要性さえ知らない人の方がずっと多い。

リテラシーの無いメンバや上層部が多いと、共有のために改善したいという意見は通らない。まず第一にリテラシーが無いから「たしかにね」とピンと来ない。

じゃあ来るまでわからせてやろうと資料を作ったところで、彼らは(自分のプライドを守るために)素直に読まない。第二の壁として、読んでもらえるよう配慮やら政治やらに苦心しなきゃいけない。

ここを越えて、仮に読んで理解してもらったとしても第三の壁、「そんな暇ないよ」「お金ないよ」一蹴が待っている。ノウハウ共有はそれ自体が直接利益になるわけではないため理解が得られにくい。リファクタリングやテストコードと一緒だ。

リテラシーが無い者たちにわからせるのは難しい。それはリア充に美少女アニメの素晴らしさを啓蒙したり、四十年ぼっちで過ごしてる優秀なプログラマーに社会人サークルの面白さを説いたりするようなものだ。価値観が根底からして違うというレベルの高き壁であり、覆ることは不可能に思える。

総務部やサポート部隊の仕事を奪うから

私が思うに、社内雑務に関して Stackoverflow のようなシステムで Q&A を構築できれば、雑務にかかる工数はかなり削減できる。

しかしそうすると、本来問い合わせを受けて回答する人達の仕事がなくなってしまう。大企業にもなると、そういった社内向けのサポート部隊だけでも何百という人間がいるわけで、彼らは一斉に職を失ってしまう。

(保守的な)大企業は 革新のために仲間の仕事を奪ってお役御免にするなんてことはしない。むしろどうやって生かせるかを考えようとする。ゆえに仲間を殺すようなノウハウ共有文化は容認されない。

インフラがないから

全拠点の全従業員が問題無く使えるノウハウ共有システム、を整えるほどのインフラがない。もっというとそのようなインフラを構築する予算と技術が無い(大企業にもなると何千、時には何万ものクライアントが相手になる。これを捌けるインフラをつくるのは簡単ではない)し、進言しても上が必要性を認識していない or できないから動けない。

だから社内の情報は昔と変わらず、口頭やメールベースで伝わり、情報は各人の中に留まってしまう。当然、知らない人がそこにアクセスすることはできない。知っている人を探して、聞きまわるとか、読み辛い探しづらい重たい使いづらい古い、なドキュメントやシステムをイライラしながら辿ることになる。

おわりに

どこの大企業もこうなのだろうか。私が都合のいい夢を見ているだけなのだろうか。

私は昔からリアルよりもネットにいるような人種で、プログラミングも好きで、と過ごしてきた。そういった居心地や効率性は仕事においても役立つと信じている。

インターネットみたいに。はてなコミュニティみたいに。Stack Overflow みたいに。そんな世界が――自由でインタラクティブなノウハウ共有が社内にもあったら良いのになぁ。